物のゆがみが分かる

ちょっと、にわかには信じ難い出来事があった。先程、夜の打ち合わせ会場にたまたま居合わせた整体の方。 「ちょっと見せて貰っても良いですか?実は僕、楽器の整体もやるんですよ」 リハで、楽器の調子がおかしいという話をしていた時だった。え、なになに?楽器の整体?どーゆーこと?

不安気な顔で見守るみんなの視線をよそに、太鼓の枠や皮をひとしきり撫でたりさすったりして、「どうでしょう?」と手渡されたその太鼓は、誰の目にも明らかなほど鳴りが良くなっていた。打てば軽やかに深く響く良い太鼓になっていた。皮の張りの歪みをとったということだろうか。

「弦楽器もいけます?」 「いけますよ」 そう言って圭一さんのラバーブを受け取ると、何やら謎の仕草をした挙句返されたその楽器は、全員の顔に特大の「!」が浮かぶほど、別の楽器のように良く鳴ってる。何これ!?何やったの!?どういう仕組み?全然わからないけどとにかく明らかに音が変わった。

彼が一体何を施したのか。傍目には、楽器をじっくり観察した後でヘッドに手首をかけ、捻った前腕の上にネックを乗せてボディをさすったりとか、そんなようなことをしていただけに見える。 「ええ、そんなようなことをしていただけですよ」 こともなげに彼は言う。 むー。世の中摩訶不思議。

僕は特に診てもらうつもりはなかったのだけれど、帰りがけに「ちょっと良いですか?」と彼が僕の左腕をとる。 「……あれ、僕左腕の不調のことって言いましたっけ?」 聞くだけ野暮だろう。この人は、身体や物の歪み、滞ってるところ、応力のかかり具合なんかが見える人なのだきっと。

「どうですか?」 どうですかも何もない。俄かに認めるのは悔しいが自然な感じで吹けるようになってる。今の一瞬でか。これちゃんとやって貰ったらきっと凄く効くんだろうな。 「そっちもやりましょう」 そう言って僕の笛を取ると、また何か謎の仕草を施す。

これがもう、ほんと、認めるのが悔しいほど、明らかに、見違えるように素直に良く鳴るようになっているのだ。もうほんと勘弁してくれ、どーゆーことなのか、ただでさえ良く鳴る良い笛だったのに、ますます、こんなに楽に鳴る笛になっちゃうなんて、もうホントに、どーゆーこと!?

「これまで僕はずっと、身体や物の歪みを見る訓練をしてきました。今ではどんなものでも大概見ればそれがわかります。それをとってやりさえすれば本来の機能を引き出せるようになるんです」 いやもう、ここまでされたら疑いを挟む余地もない。何せ毎日吹いてる自分の楽器だ。それが一瞬で変わるのだ。

ツイッターで面白い投稿を見つけました。
ゆがみについて訓練をしているうちに、体だけでなく、物のゆがみも分かるようになったという方です。
何となく、私の能力に似ていると思いました。

私は、異常がある場所を、目で濃く映るように感じています。
体を俯瞰して眺めると、異常のある場所は他と比べて濃くなっているような気がするのです。
実際に、濃く感じる部分は、固かったり、動きが悪かったり、検査をすると必ず異常が存在しています。
そして、その部分にアプローチを施すと、身体は自然と良くなっていきます。
言葉で説明しろと言っても難しいのですが、これは自分の持つ感覚です。

濃さをゆがみをして捉えたことはありませんでしたが、言葉を変えればゆがみになるのでしょう。
私は身体以外で見ようと思ったことはありませんでしたが、なんだかできそうな気もします。
もしかすると何年か後、私も楽器の整体をやるようになっているかもしれません。